田中 秀和Tanaka Hidekazu
2022年7月より千葉大学免疫細胞医学教室に国内留学をさせていただき、早くも9ヶ月が経ちました。鈴木教授から「千葉大学で勉強してみないか」と自らの母校である千葉大学を勧めていただいたときは、とても嬉しく、すぐに妻や家族と相談をして、翌日には「是非千葉に行かせてください」と返事をしたことを昨日の事のように覚えています。あの日のあの瞬間は自分のこれからの人生を決める大切な分岐点であったと思いますが、いま考えてみても、千葉に行く決意をして本当に良かったと思います。
昔から知的好奇心の塊であった私には、世界中でまだ誰も知らない、分からないかもしれないことを明らかにしていく研究がとても面白く、惚れ込んでしまいました。今では朝から晩まで研究に没頭し、楽しく充実した毎日を送っています。
私はがん免疫療法について研究をしていますが、この分野は2018年に本庶佑先生が免疫チェックポイント分子を発見したことでノーベル医学・生理学賞を受賞したとてもホットな領域です。免疫学のフロントランナーである千葉大学では「NKT細胞を用いたがん免疫療法」が厚生省の定める第3項先進医療の枠組みで開発が行われ、現在ではiPS細胞から分化させたiPS-NKT細胞による世界初の治験が行われています。私はそのiPS-NKT細胞にエピジェネティクスな変化を加えて、より治療効果の高い細胞を作製する研究を行なっています。
もともと手術が大好きで臨床を離れることに多少の不安がありましたが、研究生活を過ごす中で物事に対する捉え方が変わり、より深い考察をする習慣が身についたと感じます。またレントゲン読影や訪問診療など、これまでとは違う角度から臨床に携わるようになりました。特に訪問診療を行うと、今までは同じ病院、同じ診察室で「その方の病気」を診ていた患者さんを、その方のお家で診療を行うことになります。その方のリアルな姿を見て、生活水準、大事にしているもの、考え方などの価値観を踏まえて「その方」を診るようになりました。これらは今までの病院での診察では決して得ることができなかった貴重な経験で、研究生活を送りながらでも医師としてのスキルアップはできることを感じました。
臨床と研究を両立することは決して容易なことではないと思いますが、どちらも医学及び医療を支える大事な根幹であると思います。今の自分には双方の柱を築き、磨き上げていくことができる環境も時間もあり幸せだと感じます。いまの時間を大切に医学者としての深みを創り上げていきたいと思います。