教室紹介

熊本県内のすべての病院と診療協力を行っております

教授挨拶

 呼吸器外科が診療する疾患は、肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、自然気胸などがあります。その中で最も重要な疾患は当科手術症例の約60%を占める肺がんです。日本人がその一生涯で2人に1人ががんに罹患し、日本人3人に1人はがんで亡くなります。肺がんは年間約13万人が罹患し、年間約7万4千人が死亡する、がんの中では最も死亡者数が多い疾患となっています。肺がんの治療は、手術の他にも抗がん剤、分子標的治療、放射線治療などがありますが、臨床病期I-II期とIII期の一部の症例で最も効果的な治療は手術です。熊本大学呼吸器外科では、早期症例に対する完全胸腔鏡手術・単孔式肺葉切除・ロボット支援手術から局所進展肺がんに対する拡大手術等、オールラウンドな治療を行っており、手術症例も年々増えています。
 肺がんの切除量に関する新たな知見も出てきました。末梢の小型肺がんに対する、肺の楔状切除、区域切除になります。これら術式の成績が良好である事が報告されました。当科では、その知見を生み出さすために後述する多施設共同研究に参加して、また実臨床でも、根治性を落とさずに積極的に縮小手術を行ってきました。今後もアプローチ(創の大きさ)侵襲もさらに少なくしながら縮小手術を行っていきたいと思います。

 呼吸器外科手術症例は全国的に見ても、また当科でも、年々増加傾向にあります。ここ数年は新型コロナの影響もあり呼吸器外科手術症例は330件前後、うち肺がん症例は190件前後で推移していましたが、コロナ明けとなる昨年1年間はそれぞれ420件、235件と増加しました。さらに肺がん手術症例の内訳を見ると、肺がん、非肺がんともに、進行例が多くなってきました。免疫チェックポイント阻害薬投与後の手術症例もあります。高度な手術手技・周術期管理がさらに必要になってきています。
 そのような状況に対しうれしいことに、2010年からは、当科に新しいメンバーがほぼ毎年1~3人加わっています。今年度は2名です。彼らの将来が楽しみであり、また教育機関としての重責をひしひしと感じるところでもあります。
 基礎系分野と連携しながら、研究も積極的に行っています。たとえば、肺がん外科治療は言うに及ばず、抗がん剤・分子標的治療薬など分子生物学的研究の必要な内科治療などはまだまだ伸びしろのある領域であり、また発展が必要な領域でもあり、当科でも積極的に研究を行っています。臨床研究では、JCOG、WJOG、LOGIKなどの多施設共同研究の施設となっており、より良い治療法(または将来の標準治療)の探求に協力しています。
 熊本大学旧第一外科、旧第二外科の呼吸器外科グループの諸先輩方のご尽力から引き継がれた呼吸器外科です。皆様のご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げますとともに、熊本の皆様に安全かつ適切な医療を提供出来るよう努力する所存であります。

2024年4月 鈴木 実

熊本大学呼吸器外科では

■肺癌・転移性肺腫瘍に対する手術方法

胸腔鏡下手術(肺葉切除、区域切除、部分切除)

原発性肺癌に対する標準治療は肺葉切除術+リンパ節郭清術です。転移性肺腫瘍(他の臓器の癌が肺に転移したもの)に対する手術は癌の種類や転移の場所、個数によって異なります。
当科ではこれらの疾患に対して胸腔鏡下手術(胸に小さな穴を開けて内視鏡下に手術)を最も多く行なっております。単孔式(4-6cmの傷が1カ所)、通常の胸腔鏡手術(2-3カ所の傷)、ロボット支援下手術(4-6カ所の傷)など様々な手術を行っています。
傷が少なく小さい方が社会復帰が早いと考えられますが患者様毎に全身状態、癌の場所、進行度を考慮して最も適した術式を決定して参ります。

■前縦隔腫瘍、重症筋無力症に対する低侵襲(体の負担が少ない)手術方法

剣状突起下単孔式胸腺摘出術(Single-port Thymectomy)

当科では前縦隔腫瘍(胸腺腫など)あるいは重症筋無力症に対する胸腺摘出術を下図のような剣状突起下(みぞおち)の3cmの皮膚切開のみで手術を行っています。この切開創から二酸化炭素を送気し視野を確保、胸腔鏡と鉗子を挿入して手術を行います。
この方法は、従来の手術方法(胸骨縦切開、肋間からの胸腔鏡手術)と比較し、美容的にも優れ、術後の疼痛も少ない手術です。
2022年3月現現在、最も低侵襲(傷が小さく1カ所)であるこの術式で80例以上の手術を行なっております。
熊本県下では、熊本大学病院でしかこの術式で手術を行なっておりません。他院で異なった術式を提示された場合、当院へご相談いただきますと当術式での手術で対応可能な場合がございます。

手術数

手術数のグラフ 2023年

関連病院について

熊本赤十字病院 熊本市民病院 熊本中央病院 熊本労災病院
国立病院機構熊本再春医療センター 国立病院機構熊本南病院
国立病院機構南九州病院(鹿児島県) 済生会熊本病院
くまもと県北病院 人吉医療センター

熊本大学呼吸器外科学教室は、熊本県内外の各関連病院との診療協力・研究を行っております。2020年現在、上記病院において当科同門医師により診療・手術を行っております。また、熊本県内のすべての病院と診療協力を行っております。

スタッフ紹介